旅立ち


黄砂がやって来たらしい
遥か遠く
大陸から
風に乗って

来たくもないのに
ずっとそこにいたいのに
風のやつめ
大きなお世話だ

黄砂はずっと昔からそこにあった
そこで暮らしていた
家族もいた
友達もいた

でも
風に吹かれて
異国に飛ばされちゃった
行きたいなんて一言も言ってないのに

異国の砂は黒かった
馴染めないね
僕らの神々しい黄色
生まれつきだよ

でもいつの間にか
黄砂は異国の砂と一つになった
黒く見える砂山となり
今日も風に吹かれてる

僕らはそうやって旅に出る
ずっと同じ場所にいてはいけない
そういう生き物
それが僕らが旅立つ理由

 

僕らの幸せ


日がさんさんと降り注ぐなか
手を繋ぎランニングする親子
幸せな光景
ずっと続けばいい
そんなこと思っているはずがない
当たり前の日常だから

陽光きらめく川の水面
釣りに興じる家族
魚を釣り上げては
大きな声で叫び喜びを共有する
みな心からの笑顔
いつものことだから

幸せは日常だ
それに気づいているのか
気づいていないのか
それを知っているのか
知らないのか
幸せということに

僕たちは幸せだ
太陽の光は誰一人分け隔てなく
僕らを包み温めてくれる
僕ではなく僕らを
太陽だけではない
風や月や土や木や空や雲や海も

そして僕らは一人じゃない
僕らは幸せだ
それに気づかず
それを知りもせず
それが幸せ
だから僕らは幸せだ

 

本屋さん


僕は本屋さんが大好きだ
平置きされたたくさんの本
清潔そうな空間と
あの匂い

古本屋さんや図書館は好きではない
なんだか埃っぽいから
何より
あの匂いがしないんだ

僕が本屋さんに行く理由
読みたい本があるから
そうじゃない
暇だから でもない

僕が本屋さんに行くのは
僕に何もないから
僕は僕に何もないのを知って
焦っているから

僕は本屋さんに行けば
何かを得られると思ったから
新しい何かを知ることができる
違う僕になれると思ったから

だから僕は
今日も本屋さんに行く
僕の大好きな
本屋さん

 

ビール


ビールをグラスに注ぎ
空を透かして見た
琥珀色に染まった
空と雲
泡のなかに佇んでいる

ビールをグラスに注ぎ
窓から見える風景を透かして見た
木々やビル
遠くに人のすがた
すべてが琥珀の中にあった

ビールをグラスに注ぎ
家の中を透かして見た
テレビの中でアナウンサーが何か言っている
ソファーには僕らの家族
琥珀の中で泡立ち幸せそう

僕はビールを一気に飲み干す
琥珀色に染まった
空や緑やビルや人々や家族を
一気に飲み干した
僕は幸せを飲み干した

グラスを透かして外を見ると
すべてがなくなっていた
 

 

本当の仕事


枠を越えて協力し合う
協働
そこからイノベーションが生まれる
素晴らしい
ほんと素晴らしい

自立した人間ができること
自立した人間でなければできないこと
社会のため
自分のため
他人のため

誰かを従わせ
誰かに従う
そんな人間や
そんな組織では
絶対にできないこと

誰かを従わせようとする組織は
必ず腐敗する
一時的な成果は得られるかもしれない
永続的な発展やイノベーションは起こり得ない
仕事が目的に向いていないから

あの人によく思われたい
褒められたい
叱られたくない
だから言われたとおりのことをする
それが楽だから

偉いあの人は偉くなる
自分に従わせることで
そして従う人間を偉くさせることで
自分はもっと偉くなる
それが目的となっているから

そうなってやいないかい
まわりをみてごらんよ
これやらなきゃ怒られる
あの人に気に入られなきゃもう終わりだ
もっともらしい嘘ばかりついて

でもそうじゃない組織もあるはずだ
目的が明確で
目的に納得感があって
評価が正しくて
自分のしていることに納得感を得られる組織

そんな組織を目指すべきだ
そんな人間になることを目指すべきだ
要領がいいかよくないかじゃない
断じてない
もう嘘をつくのはやめよう

 

繋がる


緑が生い茂り
清々とする中
歩いていると
足元には桜の花びらが
降り注いだ亡骸
その横には小川が流れ
水は山からやってくる
雪解けのあと

全てが繋がっている
一連の景色とその存在
それらの中を歩く
僕は何に繋がっているのか
確かに僕は繋がってきた
でもそれがどうしたっていうのか
これからどう繋がるか
それだけを考えればいい

緑のトンネルの向こうから
誰かがやってくる
僕の希望がやってくる
待つのではなく
迎えに行く
僕は自ら繋がりにいく
それが僕の希望であり
幸福
繋がるということ

 

僕は見つける


僕は見つけた
土手に生まれた新しい生
つくしたち
そこに吹くあたたかい風
それに乗ってやってくる
さらなる生への期待

僕は見つけた
太陽の日差し
光り輝く川の水面
うっすらと透けて見える魚影
存在を伝える泡
そこに存在する家族

僕は見つけた
僕の影を
僕がいることを知り
僕が一人でないことを知る
そして見つけた
僕に重なり合う影を

僕は見つけた
光を
影を
暖かさを
熱さを
寒さを
寂しさを
喜びを
悲しみを
悔しさを
楽しさを
僕は知った

僕は見つけた
ようやく見つけた
僕の希望
僕の幸せ
僕たちの幸せ
それは家族