パンを焼く


パンを食べていた
とても美味しくて
久しぶりで
チーズとワインも
贅沢だね
いいのかな
こんな贅沢して
バチが当たるよ
君はいつもこう言っていた

パンは固くて香ばしくて
いい匂いがして
僕の心を
そう
僕の胃袋だけでなく
僕の心を満たしてくれた
もっとワインを飲みなよ
知らない人が
目の前に座っていた
僕にそういう

言われるがままに
僕はワインを飲み
チーズをつまみ
パンを食べる
ところで
君は誰だい
僕は目の前の知らない男に
そう聞いてみた

男は
大声で笑いだした
そしてこう言った
わからなかったのかい?
僕は君だよ
君だよ
そういうと
目の前から消えてしまった
パンもワインもチーズも
何もかも
消えてしまった

僕は路上に一人たたずみ
真っ暗な空から落ちてくる
綺麗な
とても綺麗な
雪を
見ていた
寒かったけど
さっき食べた
というか
パン
あのパンの匂い
思い出して
気がついた

僕はパンを作るんだ
僕にとっての
君にとっての
僕らにとってのパンを
みんなに食べさせなきゃ
待たせてごめんよ
今すぐ焼くからね
とっておきの
とてもいい香りのする
僕らの心を
満たす
あのパンを
それが僕がすべきこと
わかったんだ