夏の夜

 

蝉の幼虫を見た

 

家への帰り道

電灯に照らされた足元

何かが動いている

 

踏まないようにしないと

よく見たら

 

蝉の幼虫だった

 

抜け殻しか見たことがなかった

抜け殻の中には確かに蝉がいて

いや蝉かどうかもわからなかったけど

 

それは確かに抜け殻ではなくて

その抜け殻は動いていて

道を必死に横切ろうとしていた

 

蝉の幼虫はどこに向かっているのか

 

蝉は何年も土の中で暮らし

成虫になって空を飛び

数日で死んでしまう

 

有名な話

切ない話

けれど誰も本当のことは知らない

 

蝉の幼虫はなぜ土から出てきたのだろう

 

ずっと土の中にいればいいじゃないか

そこで幸せを築けばいいじゃないか

外に出たら数日で死んでしまうのだから

 

外の空気を吸いたい

光り輝く太陽を見てみたい

なにより空を飛んでみたい

 

蝉は何を目的に生きているのだろうか

 

土の中で蓄えた力

羽根を伸ばし大空を駆け巡り

大きな声で泣き

 

人生最後の大冒険

そこで大恋愛をして

子供を作り死ぬ

 

ただ長く生きていればいいってもんじゃないな

 

そう思って

これから大冒険に出る蝉の幼虫

見送った

 

僕の大冒険はどこに向かってるのかな

今どこらへんにいるのかな

そんなことを思った夏の夜だった