わからないことだらけ

 

その店はフェリーの待合室にあった

ナンテコトノナイ食堂

 

その町の名物は甘エビ

新鮮で美味しいホント美味しい

 

だから名物は甘エビ丼

昼食時には多くの観光客が集まる

 

甘エビ丼

海鮮丼

 

みな舌鼓を打つ

楽しそうな笑い声

 

僕の隣には

おじさんとその母親らしき女性

 

母親は甘エビ丼を食べていた

美味しいね美味しいね

 

その母親はおじさんに何回も言っていた

こんな美味しいの食べるの初めて

 

おじさんは嬉しそう

そうだろそうだろ何回も言っている

 

こんな贅沢していいのかね

母親は言う

 

おじさんは滿足そうだ

たまにはいいじゃないか

 

そんな会話が聞こえてきた

おじさんの親孝行だ

 

でも気づいた

母親は笑っていなかった

 

店を出て思った

あの母親はなぜ笑っていなかったのだろう

 

本当は嬉しくなかったのだろうか

もしかして美味しくなかったのだろうか

 

わからない

僕にはわからない

 

それはあの親子のことだから

僕にはわからない

 

結局そうなんだ

僕にはわからないことだらけなんだ

 

あの親子が店から出てきた

相変わらずおじさんは嬉しそうだ

 

母親の方はうつむいたまま

それでもおじさんにお辞儀してお礼を言っていた

 

ありがとう

連れてきてくれてありがとう

 

おじさんと母親は駐車場に向かっていった

母親の背中はどこか寂しそうだった

 

幸せな二人

多分そうなのだろう

 

人が何を感じているか

その人次第

 

僕にはわからない

その人にしかわからない

 

たとえ親子であっても

恋人同士であっても

 

そんな世界を僕らは生きている

わからないことだらけの世の中

 

僕らはわからないことだらけ

僕らは幸せを探し続ける

 

それでいい

それでいいじゃないか