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歩く


森の中を歩く
ただひたすら歩く
緑の木々をかき分け
一心不乱に歩く
僕はひとり歩く

手には缶ビール
どこかに行こうとしているわけでもなく
なにかあてがあるわけでもない
ただただ前に歩く
僕はひとり歩く

陽が落ちてきた
夜になるとこの辺りは寒くなる
それでも森の中へとひたすら歩き続ける
目的があるわけでもない
いや おぼろげに目的がわかりながら気づかないふりをして
僕はひとり歩く

水の音が聞こえてきた
きれいな小川が見えてきた
あたりは既に暗くなっている
持っていた缶ビールを小川の水にしたし
しばらく水の流れを眺めてから取り出しフタを開け
一口 喉元に流し込む

いつもの味だ
苦くて 甘くて
僕の全身に溶け込んで
僕の心に染み込んで
僕を癒し 満たしてくれたあの味だ

近くの石の上に座り 空を見上げる
もうあたり一面 真っ暗だ
明かりは月と とてもキレイな星だけだ
また一口 ビールを飲み込み
頬をつたう涙をぬぐう

なんでこうなってしまったのだろう
僕は幸せな人生を歩んできたし
これからもそうなるはずだった
そうなるはずだと決まってた

でも違っていた
何もかも失ってしまった
自分自身 何もかも捨ててしまった

そしていま
自分自身を捨てる時が来た
それが今日ここに来た目的だ
そのことを再確認して
残っていたビールを一気に飲み干した

ビールは最後まで僕の心を癒し満たしてくれた
しかし本当は知っている
酔うことで 心を偽り 満たすふりをしていたことを
知っていたけど ずっとそうしてきた
世の大部分の人がそうしているように

さあ 行こう
もっと進まなければ 歩かなければ
みんなが待っている

待っている人などいないことも知りながら
それでも会えると信じて歩く
僕はひとり歩く

もうすぐだ もうすぐだよ
楽しみだ 久しぶりだ
待っててよ
僕はそっと目を閉じた