はじまり


田舎道を車で走っていたら
若い男女が
おしゃべりしながら歩いていた

畑しかないような
家もあまりない
そんな道を歩いていた

二人は笑っていた
恋人同士だろうか
それとも兄弟だろうか

いやただの友達
お互いが気になっているただの友達
だといいなと思った

きっと何か理由があって
この田舎道を歩いているのだろう
どこかに行く用事があるのだろう

でもそんなこと関係なくて
このまま時間が続けばいい
そう思っていたらいいな

なんて思って
通り過ぎた一瞬だったけど
そんなふうに思って

これが始まり
だといいな
ただそう思った
 


快晴だ
朝起きてカーテンを開けると
雲ひとつない青空が広がっている

不思議だ
どんなに僕の心が曇っていても
なぜか清々しい気持ちになる

空には雲ひとつない
この空は宇宙だ
夜には星も見えるはず

僕らが見ている星は
何百年も前の姿という
であるならば僕はどう見えているのだろう

星など見えない雲ひとつない青空を見て
そんなことを思っていたら
この世は僕のものなんだ

そんなことに気がついて
さらに気持ちが晴れやかになった
出かけよっと

 

ピアス


ピアス

耳にピアス
可愛いね
似合ってるよ

ピアス

唇にピアス
一緒に口に含み
君にキスする

ピアス

ヘソにピアス
キュートだね
キスしていいかい

ピアス

鼻にピアス
それはダメだよ
なんでそんなことするの

ピアス

僕のピアス
飾り物なんかじゃない
君がピアス

ピアス

おしゃれなんかじゃない
なくちゃいけないもの
自然な存在

ピアス

僕のピアス
なくてはならないもの
僕自身

ピアス

僕のピアス
素敵なピアス
僕だけのピアス
 

トンボ


山道を車で走っていると
霧が出てきて
そのうち真っ白になって
そのまま吸い込まれそうになって
そう思ったけど
白いセンターラインを見ながら
慎重に走った

やがて霧の向こうに
何かが見えてきて
やがてそれは湖だとわかって
そのまま車で走っていると
湖の上にも霧がかかっているのだけど
その上には明るい雲が輝いていて
その輝きは湖に反射して辺り一面が輝いていた

天国
もちろん行ったことはないけど
こんなところなのかな
こんな風景なのかな
そんなことを思ったけど
そんこと思ってもどうなるわけでもなくて
先を急ぐことにした

だけど
僕には急ぐ先もないことに気づいて
湖畔に車を止めて
しばらく湖を見ていたら
つがいのトンボがやってきて
楽しそうにランデブー
そんな感じでダンスしていた

急ぐ先もないけど
また車に乗り湖畔を走り出したら
先ほどのつがいのトンボが飛んできて
フロントガラスにぶつかった
ベチャって
あのつがいのトンボは
どこかにいってしまった

幸せだったのかな
そう思ったけど
そうかここは天国なんだ
そんなことに気がついて
それに気がついたら
僕は誰なんだろう
そんなことにも気がついてしまった

 

蜘蛛の巣


ベランダに
蜘蛛の巣ができていた

何でこんなところに
いつのまにできたのだろう

棒を持ってきて
払い落としてしまおう

そう思ったのだけれど
よく考えたら

ここに蜘蛛の巣があれば
家の中に入ろうとする虫を捕まえてくれるのではないか

そう思ったら
お互い様

うちの用心棒
そんなこと思った

そう思い直して蜘蛛の巣をよく見たら
糸が光り輝いていて

幾何学模様に張られた蜘蛛の巣は
美しかった

そうか
僕はこんなことも知らなかったんだな

そして生きているものには
みな意味があり

自分自身のためだけでなく
他人に取っても意味があり

それを知るか知らないか
それを気づくか気づかないか

その人次第
そんなこと考えて

あーそうかと
僕は大きな声で笑っちゃった
 

クラゲ


君はクラゲを見たことがあるかい?
そう海にいるクラゲさ
夏が終わると出てくるあの気持ち悪いやつ

昨日水族館に行ったのさ
古びた水族館
水槽が並んでいるだけのような水族館

その水槽にクラゲがいた
透明で透き通っていて
キノコみたいな頭に長い長い足みたいのもある

僕はクラゲが泳いでいる姿を初めてみた
頭をふくらましたりしぼませたり
上へ下へと泳いでいた

クラゲって
ただ浮かんでいるだけ
ただ海に身を任せているだけ そう思っていた

クラゲは一生懸命泳いでいた
そしてその姿は
例えようがないほど美しかった

僕は知らなかった
クラゲのたくましさを
クラゲの美しさを

僕は釘付けになった
僕には知らないことがたくさんある
クラゲを見てそう思った

僕は僕がダメなやつだと思っているけど
僕は知っているけど
僕は本当のことを知らないだけかもしれない

ジタバタしてもがいている僕
ちょっと褒められて喜んでいる僕
けっきょく騙されて泣いている僕

そんな僕だけど
そんな僕はほんの一部であって
僕は本当の僕を知らないのかもしれない

僕の美しさを
僕のたくましさを
あのクラゲのような

そう思ったけど
そんなこと知らなくていいや
それが僕だから

そんなこと思ったら
なんか清々しい気持ちになって
水族館から外に出た
 


岬が好きだ

室戸岬
襟裳岬
犬吠崎

いろんな岬に行った

地球岬
恋人岬
黄金岬

こんな岬もあった

岬に立つと
そのまま吸い込まれそうで
怖くなる

同時に
僕らが住む大地に立っていることで
安心する

岬は
不安と安心
そしてまだ見ぬこの海の向こうへの希望を与えてくれる

まだまだ知らないことがある
まだまだできることがある
まだまだ行くべきところがある

岬には
灯台がある
ポツンと

昼間は気がつかないけど
夜になると
強烈な光で僕らを導く

行く者も
帰る者も
分け隔てなく誘う存在

そんな岬は
僕らが生きていることを気づかせる場所
僕らの世界を教えてくれる場所