求めていたもの


僕は山間の道を歩いていた
とても天気が良く
心地よい風が吹いている

どこに向かうでもなく
ただただ歩いていた
気持ちよければいいじゃないか

そう思いながら
極力何も考えないように
心地よさに集中しようとしていた

すると突然、雲が広がりだし
怪しい天気になってきた
相変わらず僕はついてないな

そんなふうに思いながら
舌打ちして
木陰に入った

空から雨が降りはじめ
その様を見ていたら
気がついた

空から雨が降り注ぐ
その様子
なんて美しいんだろう

いくつもの線が
輝き
空から降り注いでいた

知らなかったな
僕は本当にバカだな
そう思って木陰から足を踏み出した

降り注ぐ雨
濡れた葉っぱの匂い
光り輝く雨粒

なんて気持ちいいんだ
これだよ
僕が求めていたのは

僕はずぶ濡れになりながら
楽しくて
楽しくてしょうがなくて

気がついたら
雨になって
川になって
土になって
空になって
自然になっていた

これだよ
僕が求めていたのは
やっと見つけたよ

ありがとう

 

smile


やあ
こんにちは
元気かい
僕は元気だよ
なんとかやってる
そちらはどうだい
変わりないかい
じゃあね
またね

ほっとする
またなんてない
だって
僕は一人だから
一人が怖くて
一人が好きだから
一人でいるのは辛いけど
一人でいるのに慣れてしまうと
一人でいるのは心地よい

やあ
また会ったね
どうだい
今度飲みにでも行こうか
そうか
そうだよね
行くわけないよね
僕なんかと
一緒にいてもおもしろくないもんね
ただの知り合い
仕事上の付き合い

そうなんだ
だから
僕は一人が心地よい
一人でいれる自分になった
食事だって一人でできる
何も怖いことなんてない
いいだろ
楽しいよ
快適だよ
だって自分のことだけ考えていればいいのだから

やあ
なんか元気ないね
どうしたんだい
どうした
なんで泣くの
ほら
ハンカチ
涙を拭きなよ
でも
僕には君の悩みに応えられる度量はない
ごめんね

いったいどうしたっていうんだ
この娘のこと
なんとかしてあげたいと思う
僕は自分以上に人を愛せない
ずっとそ思ってきたじゃないか
それなのに
この娘のために何かしてあげたい
そんな自分がいた
僕らしくない
僕らしくないじゃないか

やあ
落ち着いたかい
食事でも行こうか
いつもは一人で行く
とびきり美味しい店があるんだ
きっと元気が出るに違いない
だから
だから泣かないで
笑ってよ
そう
そうだよ
笑う角には福来る
そういう決まりさ

さあ行こう
美味しい食事でもして
楽しいことはいっぱいあるさ
さあ
行くよ
一緒に

 

情けない週末


晴れた日曜日
どこかに出かけたくなる
どこに行こう
希望でいっぱい
満ち足りた時間

でも考えるだけで
時間は過ぎてしまい
もう夕方
残念、また来週
そんな日曜日

そして
そんな週末の繰り返し
早く週末がやってこないかな
そればかり考えて
日々を過ごす
そしてやってきた週末

希望に胸を膨らませ
そしてしぼみ
焦り
何もしないで終わる週末
情けない週末

一年って早いね
そりゃ早いさ
こんな日々を送っていたら
毎週やってくる
希望に満ちた
情けない週末

その繰り返し
あっという間に一年が経ち
三年が経ち
一生が終わる
そんなこと知ってか知らぬか
ただ焦っている

絶望という名の焦りを
欲望でごまかして
眠ることで正当化して
嘘をつきながら生きている
そんな日常

もうやめろ
やめようよ
stopだ
いいわけないよ
こんなこと
もっと真剣になれよ

真剣になって
何もできないことを知るのが怖いから
続けている
ごまかし続けている
そんな日常
そんな人生

やめようよ

stopだ

 

幸せだなぁ


お風呂に入って考えた
幸せだなぁ
暖かくて
気持ちよくて
ずっとこの瞬間が続けばいいのに

お酒を飲んで考えた
幸せだなぁ
美味しくて
なんだか楽しくて
ずっとずっと飲んでいたいや

布団に入って考えた
幸せだなぁ
眠くて眠くてしょうがない
このまどろみの中
ずっと眠っていたいや

そうしたら
ずっと眠ってた
もう起きることはなかった
ずっとずっと
幸せだなぁ

 

翔んだカップル


素敵な服だね
かわいい
どこで買ったの
無粋なこと聞くね
似合うか似合わないか
それだけよ

彼女は言った

似合う
つまり
自分がわかっているっていうこと
自分を客観的に見ることができているということ
その結果が似合うということよ

彼女は続けた

着ている服も含めて私なの
だから褒められて嬉しいわ
でも勘違いしないでね
服だけを褒めないで
この服を着ている私を褒めてちょうだい

僕は言った

そうだよね
そうなんだよね
あのさ
そんなこと知ってるよ
それを知ってる僕だよ
信じてよ
僕は君を知ってるんだから

素敵な君

そんなこと言えるわけがない
でも言うよ
素敵な服だね
かわいい
もちろん君さ
君の全部が好きさ
だって
素敵なんだもの

だけど言わないよ

言えないよ
そんなこと
言わなくてもわかってよ
言霊だって?
また難しいことをいうな
わかった
わかったよ
言うよ

似合ってるねその服
君らしい
本当かわいい
服じゃないよ
君のこと
本当さ
その服を選んだ君が好き

僕の好きなもの
それは
君のこころ
いいだろ
素敵な二人
そうさ
僕らは
お似合いのカップルさ

 

 

バカ


僕は純粋で利口なバカ

人の言うことを信じるバカ
それでも浅はかな人のことはわかるバカ
でも浅はかなのに政治的な人のことはわからないバカ
なんでそんなことをするのか理解できないバカ
理解できないのは正しいことだけどバカ
正しいことしているから正しいのだけどバカ
バカで利口なバカ

それが僕

利口とバカって誰が決めた?
誰が決める?
利口が利口でバカがバカかなんて
誰にもわかりやしない
決められやしない
すべて自分
自分が考えること

僕は純粋で利口なバカ

まわりの人はどう思ってる?
思ってなんかいない
みんな自分のことしか考えていない
だから
相手をバカにする
自分がよければそれでいいから

そうなんだ

だって
自分がよければそれでいいから
そのためには
相手がダメじゃなければならない
だから相手を騙して
自分にとってのバカにする
自分がよければそれでいいから

バカ

本当バカ
誰がバカ?
みんなバカ
カバに食われて死んじまえ
バカ
バカ
純粋で利口なバカ

それでいいじゃないか

 

音楽


絵を見ていた
一枚の大きな絵
緑で青くて
葉っぱや楽器が書かれていた
なぜかその絵が気になって
しばらくの間ずっと見ていた

なぜだろう
なぜこの絵が気になるのだろう
そう思ったけどわからなかった
その絵は技術的にすごいものとは思えない
僕にでもかけるんじゃないか
そんな絵だった

しばらくして
僕はその絵のことを忘れていた
いつもの日常
いつものつまらない日々が続いていた
何かしているようで
何もしていない日々

でも時々
あることに気づいて
嬉しくなった
それは
自然を見つけた時
素晴らしい自然に出会えた時

その時
僕は気づいた
あの絵の素晴らしさ
あの絵の自然を
自然の姿を描いているのではないのに
あの絵は自然だった

僕が求めているものが
あの絵にはあった
だから気になって気になって
仕方がなかったんだ
そう思ったら
僕は急に絵を描きたくなって

描こうと思ったけど
描けるわけもなくて
どうしようと考えていたら
僕はあの絵の中にいて
自然と一体となって
幸せに楽器を弾いていた

これか
これが僕が求めていた幸せなんだ
そう思ったら嬉しくて
楽しくて
どうしようもない気持ちで前を向いたら
僕のことを見ている僕がいた