美しいもの 輝き その身体


海を見ていたら
マグロの群れに
遭遇して
ああ
イカを入れなきゃ
漁師でもないのに
そんなことを思って
船の上で
思いを馳せたら
なぜか
僕は
マグロになっていて
黒い
深い
海の中を
銀色に染め上げて
疾走していた

僕の体は美しい
研ぎ澄まされている
氷のように
削り出された
一本の
オブジェ
躍動感に満ち
光り輝くその様は
まるで未来の乗り物
宇宙船の
ようだった

目の前にイカがある
これは餌だ
騙されるもんか
だけど
反射的に
食いちぎった
だけど
釣り針が突き刺さる
負けるものか
深い深い
海の中に潜り
漁船を
転覆させてやる

どうだ
どうだ
僕の勝ちだ
甘く見るんじゃないよ
僕の力
美しさ
どうだ
気がついたら
船の甲板で
血抜きをされていた
横には
高揚した表情の
年老いた漁師

これで年が越せる
そんな
せっぱつまった
思いが顔に出ている
僕は
きらびやかな
疾駆する
体を横たえ
血にまみれながらも
美しさ
陽の光を一身に浴び
輝き
堂々たる
自分の体を
誇らしげに
太陽に見せつけていた

港に運ばれると
僕は注目の的
となり
みんなの
笑顔
歓喜
どよめき
そんな中で
心臓をえぐり取られ
銀色に輝く漆黒の体を
横たえながら
みなに
この身を食らわせた

僕は
私は
皆の体に入り込み
皆の血と合流し
その血は
船の甲板に流した
あの血と合流し
そして
僕の
私の血となった

僕が
皆を
食らったのだ
その瞬間
銀色の
光り輝く
僕の
身が
太陽の
日差しで
弾け飛んだ