僕のアイドル

 

僕には好きな歌手がいた

コンサートにも行ったし

レコードも買ったし

ラジオも聞いたし

歌も歌った

 

彼はおじさんだったけど

ピアノが上手で

踊りは下手だけど

パフォーマンスも苦手だけど

いつも一生懸命

 

僕は彼が何を歌っているのか

知りたくて

知りたくて

辞書を引きながら

ノートに書き出した

 

僕は彼になりたかったから

彼のサインのマネしたり

彼の歌い方を真似したり

彼と同じシューズを買ったり

彼が好きな飲物を飲んだり

 

ある時

新聞に彼の記事が乗っていた

珍しいな

そう思ったら

彼は遠くに行ってしまったらしい

 

僕は

僕の心は彼の心で作られていたから

僕は

どうしたらいいのだろう

そう思ったけど

 

僕の心は

僕の心でしかなくて

彼の心だけでなくて

色んな人達の心で作られていたから

僕は僕なんだ

 

だから

僕は歌うんだ

僕は描くんだ

僕は書くんだ

僕の心を

 

誰かに伝えたいから

彼がしてくれたように

僕も

誰かに

伝えたいから