弱虫


虫が飛んでいた
蚊みたいな
細い体躯に細い手足
ふわふわと
自らの力ではなく
空気に運ばれるように
飛んでいた

家の中だったから
嫌だな
外に出て行って欲しいな
そう思ったけど
よく皆がやるように
手でパンって
つぶすことはできなかった

僕は蚊に刺されやすい
いつも僕だけ
なんで僕だけ
刺されては赤く腫れ上がり
かゆいかゆいと言っているけど
手でパンって
つぶすことはできなかった

なぜか
生きていることを感じてしまう
生きていることを考えてしまう
おかしいよね
僕を刺した蚊なのに
僕の血を吸い取った奴なのに
パンって潰せばいいのに

この小さなか細い体で何を考えているのだろう
どうしてここにいるのだろう
なぜ僕のところに来たのだろう
この虫の命を
僕がここで終わらせていいのだろうか
そんなことを考えて
パンってできない

家の中を漂っていた
あの虫は
次の日の朝
床の上で死んでいた
よかった
そんなことを思いながら
ゴミ箱に捨てる

おかしいよね
毎日肉や魚を食べて生きている僕に
そんなことを考える権利はないはずだ
ただの弱虫
それが正解だ
だけど
それが僕だからしょうがないや